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上野の森の都美術館「生活と芸術―アート&クラフツ展」
上野の森の都美術館「生活と芸術―アート&クラフツ展」_a0063220_172222.jpg 今年の春は早く、西の方から桜前線が急速に北上、東北・仙台でも4月に入れば、早々に開花宣言かも知れません。「賢治とモリスの館」、見事なカタクリの花の群生と姫ギフ蝶の乱舞の舞台は、桜の開花とほぼ同じ季節です。それに会わせて「館」のオープンですから、いよいよ今年も開館の準備に入ります。4月早々、皆様のご来訪をお待ちします。宜しく。

 3月19日(木)上野の東京都美術館で1月から開催の「アート&クラフツ展」―ウイリアム・モリスから民芸まで―を観覧してきました。
 その前日18日には、昨秋「館」のイングリッシュ・ガーデンのリフォームをした際、女性造園技能者の育成・技能承継のモデルづくりを試みました。その報告書の発表を、「虎ノ門パストラル」で行いました。

 まず「女性技能者(造園)の確保・育成にむけた指導カリキュラム・実習教材等、女性技能者活用方策の検討」ですが、国交省・厚労省の関係団体の(財)建設業振興基金の主催で、「みやぎ建設総合センター」の事業内容として、プレゼンテーションを行いました。
 07年6月、英コッツウオールズを訪れた際の写真を使い、イングリッシュ・ガーデニングのメッカにモリスのケルムスコットマナーもあり、アート&クラフツ運動との結びつきを紹介しました。NHK、BSハイビジョンの「世界で一番美しい村」、そこでの「女3代の庭造り」、モリスの運動の継承者C.R.アシュビーのギルド工房に働く女性技能者の姿、①イングリッシュ・ガーデニング、②女性技能者の活躍、③技能承継とギルド、3つのキーワードで、わが「賢治とモリスの館」を実習現場として、今回制作した指導カリキュラム・実習教材を紹介しました。わずか30分足らずの短い時間でしたが、仙台・作並で行われた新しいアーツ&クラフツ運動の意義は充分伝わったように思います。

 翌日午後、念願の上野の森の都美術館に出かけました。東京は汗ばむほどの暖かさ、桜も咲き始めていましたが、週日なので混雑も無く、ゆっくり観覧できました。
 今回は、全体がアーツ&クラフツ運動の発展と継承に力点が置かれた展示だからでしょう、モリスに関しての展示は多くはありません。それでもテキスタイルや壁紙、V&Aのグリーンダイニング・ルーム、ケルムスコット・マナーの紹介写真、それに本では『プロテウスの恋愛叙事詩と歌』、彩色手稿本『詩の本』、『黄金伝説』、いずれも「賢治とモリスの館」のコレクションにも含まれていて、とても身近な感じを受けます。これからの「館」の展示方法の参考になります。
 展示は、大きく3つに分かれ、第1のイギリスでは、モリスに始まり、ロンドンから地方都市へ、そして田園地方へ、アーツ&クラフツが芸術運動として、つまりアーツ&クラフツ運動として拡大発展した流れが整理されます。とくに田園への発展として、コッツウオールズのチッピング・カムデンのアシュビーによるギルド工房が紹介されていました。「昨日、女性技能者の技能承継としてプレゼンテーションしたばかりだ」と思いながら、
日本における新しいアーツ&クラフツ運動の意義を痛感した次第です。
 第2のヨーロッパ、アールヌーボーから、さらにドイツ、スカンジナビア、ロシア各地への運動の拡大、それに技能と工業技術、国家主義との関係と運動の変容、興味深い論点が沢山提起されていました。不勉強で知らないものが多く、良い勉強になったと思います。ただ、アメリカが抜け落ちています。マッキントッシュなど、アーツ&クラフツ運動の国際的拡大にとって、米国を抜きには出来ない。恐らく、昨年開かれた埼玉県立近代美術館の「アート&クラフツ展」が、すでにアメリカへの拡大発展を取り上げたので、今回重複を避けたものと推察されます。去年と今年、2つの展示会を総合すると、アーツ&クラフツ運動の世界的拡大が全体として捉えられる、そう思います。ご参考までに。
 第3は日本、民芸運動とのつながりです。「三国荘」の再現など、とても興味深く観覧できました。民芸は今回の企画の大きな狙いだし、いよいよ日本のアーツ&クラフト運動の登場する時代の訪れを感じさせます。「賢治とモリスの館」としても、嬉しい限りの企画だと思います。ただ、少し民俗学的になりすぎてはいないか、またモリスのアーツ&クラフツと、どう結びつくのか明確さに欠ける展示もあるように感じます。さらに、工芸
に限れば民芸が中心でしょうが、日本の明治・大正期のモリスたちの運動の受容は、工芸より社会・芸術思想が中心だった。さらに「館」としては、宮沢賢治の「羅須地人協会」とモリスとのつながりも、少し感じさせて欲しかった。そんな感想です。

 でも、昨年から今年、「百年に1度」の世界大不況の中で、暮らしの見直し、働くことの意味など、根本から考え直す時代が来たように思います。百年前の昭和恐慌の時代、宮沢賢治が花巻の「羅須地人協会」を立ち上げ、モリスのアーツ&クラフツ運動から学んだ農民芸術論、いま皆でじっくり考えたいと思います。
  写真は、C.R.アシュビーの建てたチッピング・カムデンのギルド工房です。上野の森の都美術館「生活と芸術―アート&クラフツ展」_a0063220_1733094.jpg
by kenjitomorris | 2009-03-21 17:15
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賢治とモリスの館 - 最新情報
by kenjitomorris
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