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コッツウォルズとW・モリス
<情報コーナー><研究ノート>
 07年6月17日より27日まで訪英し、コッツウォルズとロンドンを個人旅行(8泊9日)した。その報告を兼ねて、見たこと、感じたこと、そして考えたことを、少し書いてみよう。
 先ずはコッツウォルズから。こちら3泊4日の短い旅だったが、「賢治」風に表現すれば、モリスはコッツウォルズの「地人」である。モリスのデザインも、詩も、政治評論も、その地人芸術なのだ。コッツウォルズを抜きに、モリスの芸術も、思想も、文学も語れない、それが今度の旅の結論だろう。
 コッツウォルズは今、世界から注目されている。日本では、NHKのBSハイヴィジョンで「世界で一番美しい村」として、ガーデニングを中心に紹介された。モリスは、100年以上前、「イングランドで一番美しい村」と書いたが、いまや「世界一」に格上げである。その「美しさ」だが、単に自然の美しさではない。自然の美しさなら、日本でも、もっと美しい風景が沢山あるはずだ。世界中には、さらに一層素晴らしい自然があるだろう。
 コッツウォルズが世界一なのは、その自然の美しさだけではない。庭や花の美しさだけではないと思う。ガーデニングが暮らしの中に生きていること、人々が自然の中に生きる美しさ、それが世界一なのだ。暮らしの生活の美しさであり、モリスが主唱して止まなかった、「生活芸術」(Lesser Art)の美ではないかと思う。という意味で、モリスの芸術は、コッツウォルズの「地人芸術」なのだ。
 これは出掛ける前からの知識だが、モリスの祖父は、イギリスのウエールズの出身だが、イングランドのコッツウォルズに隣接するウースターの町で成功した。明治の初め『米欧回覧実記』の岩倉具視も立ち寄り、ジャポニズムの影響の強い陶磁器、ロイヤル・ウースターで有名だ。ソースも生産された。ソースの代名詞になっているウースター・ソースだ。羊毛工業では、コッツウォルズと一体で発展した歴史の町でもある。モリスの父は、ウースターで町の娘さんと結婚し、モリスが誕生した。1834年のことである。
 モリスは、父がロンドンの金融界で成功したこともあり、ロンドン郊外で生まれ、育った。大学はオックスフォードのエクセター・カレッジだが、沢山のカレッジの集まるオックスフォードの町も、地域的にはコッツウォルズに含まれる。コッツウォルズ、南北に別れていて、オックスフォードは南の端の拠点である。モリスが仲間とともに、カレッジのユニオンの壁画を描いた、そして妻ジェインとの愛と結婚につながった町だ。昔1982年、オックスフォードでA・ブリッグス学長から、K・マルクスからモリスへの研究を薦められた日の事を懐かしく想い出しながら、オックスフォード駅を過ぎた。
 念のため書き加えておくが、有名なシェクスピアの故郷、Stratford-Upon-Avonもそうだし、 ローマの浴場の歴史の町Bathも広域コッツウォルズの一部だそうだ。だから自然だけではない。歴史や文化の実り豊かな土壌がある。われわれ個人旅行は、鉄道とともに、移動はもっぱらハイヤーを利用した。観光ガイドを兼ねた、じつに親切なドライバー氏、彼もShakespeare Tour.coの所属だった。
 コッツウォルズへの旅の目的、むろん「世界で一番美しい村」を訪れることだ。さらに、モリスの『ユートピア便り』の船旅の到達点、別荘として利用された「ケルムスコット・マナー」に出かけることだった。その日、マナーがオープンするのに日程も合わせた。小さな村が多いが、中でもさらに小さな村がケルムスコットであり、そこにひっそりと建っていた。とはいえ、マナーがオープンだから、その日は訪問客が沢山いたし、内部は順番待ちで見学した。まだ、ナショナルトラストに入っていないためか、地域のボランティアが案内役のように見受けられた。地域がマナーを守り、維持する姿勢が強く感じられる。
 一番嬉しかった事、それは『ユートピア便り』の口絵にある、あのスタンダード仕立てのバラが玄関先の両側に美しく花を咲かせていたことだ。このバラの仕立てには、大変手間隙かかる。わが仙台の「館」の庭の同じバラの手入れの経験からわかる。口絵を描いた、その日から120年は経っている。でも、その日のまま、口絵のようにピンクのバラが咲き匂っているではないか。「ああ、ここまで来た甲斐があった。」モリスのユートピア社会主義が美しく生きている。
 「ロセッティとジェインが同じ時を過ごした<隠れ家>ケルムスコット・マナー」として、バラの並ぶ写真とともに、マナーの写真が07年7月8日の日経新聞に大きく紹介された。マルクスにも、妻が連れてきた女中さんに私生児を産ませた話がある。ヴィクトリア期には、よくあったスキャンダラスな事件も、マナーの長い歴史には刻まれている。しかし、モリスは死ぬまで、ここマナーに憩いの場を求めつづけた。彼の発想、思索の源泉となり、『ユートピア便り』の舞台になった。いま、この小村の質素な教会の墓地の草むらに、モリスとジェインは仲良く、娘たちとともに眠っている。
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by kenjitomorris | 2007-07-08 22:22
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