<情報コーナー>
「館」も紅葉の季節が終わりました。日に日に冬の訪れを感じます。夕方から冷え込み、朝は霜が白く光ります。でも、昨年と比べたら小春日和が続き、暖冬かもしれません。「館」の裏山は奥羽山脈、その向こうは日本海側、気候がガラッと変わります。この気候の段差が、ときどき大きな虹の橋を作り出します。奥羽山脈にかかる美しい虹の橋、この季節によく見られます。 <研究ノート> モリスには、「空想的社会主義」」のレッテルが貼られている。工業化の機械文明と単純労働力の商品化を批判して、労働の疎外からの脱却を、中世ギルドの職人・技能労働の復活に求めた。ギルド社会主義だ。賢治も農民の「芸術をもて、あの灰色の労働を燃やせ」と訴えた。そして、モリスが『ユートピア便り』を書き、賢治も「イーハトヴ」を求めた。ともに工業化・機械化・近代化の「都人」に対して、「地人」の芸術に人間回復を探求したのだ。 今日まで、「科学的社会主義」がマルクス・レーニン主義として、「空想的社会主義」に対置されてきた。むろん労働疎外から脱却し、労苦から喜びの労働に変えるにしても、単なる架空の夢物語では困る。暗黒の現実にバラ色の理想を掲げるにしても、全くの空想では、文学の世界では許されても、政治にはならない。政治的思想としては、現実を科学的に解明し、理想を科学によって基礎づける必要がある。19世紀、社会主義の夢が実現されぬまま、「科学的社会主義」が要請されるのには、それなりの根拠があったと思う。 モリスもマルクスを学び、彼の影響を受ける中で、「科学的社会主義」を求めていた。『資本論』を2度も読み、1886-87年には「社会主義同盟」の機関紙『コモンウィール』に「社会主義の根源」を連載した。25本もの大きな論文であり、社会主義の歴史に遡って、自己の社会主義の主張をチェツクした。最後の7本の論考では、『資本論』第1巻の理論をまとめる努力をした。誠実なモリスは、自らの社会主義の主張を、『資本論』の科学的理論により点検したことは疑いない。そのうえで『ユートピア便り』も書いたのだ。 そのモリスをエンゲルスは、「感情的な空想的社会主義」として、事実上退けた。何故だろう? 理由は、エンゲルスの方に、とりわけ『空想から科学へ』の社会主義論にあると思う。エンゲルスの社会主義は、後期マルクスの『資本論』の理論そのものよりも、初期から中期マルクス・エンゲルスの唯物史観の公式から直接導かれた性格が強い。科学的論証以前の「イデオロギー的仮説」としての唯物史観だ。「労働力の商品化」の労働疎外からの脱却より、法的所有論からのアプローチであり、工業化の生産力の質を問うことなく、国有化や計画化が強調されたのだ。 それに加えて、唯物史観の公式からマルクス・レーニン主義のドグマも生まれた。1)理論と実践、2)歴史と論理、3)科学とイデオロギー、この3者の弁証法的統一のドグマだ。とくに3)からは、科学は唯物史観のイデオロギー的仮説に還元され、仮説の社会主義イデオロギーが科学として主張される。科学的社会主義ではない。唯物史観のドグマに還元された社会主義的科学なのだ。社会主義の主張は、科学によって根拠づけられてはいない。イデオロギー的仮設のままの主張だけだ。 モリスは違う。後期マルクスの『資本論』に直接入門したモリスは、唯物史観のイデオロギー的仮説からは自由だった。「科学とイデオロギー」の統一のドグマからも自由だったのだ。マルクスは『資本論』で純粋な資本主義を抽象し、はじめて周期的恐慌の必然性を論証して、労働力商品の矛盾を説くことに成功したのだ。モリスは、この労働力商品化の止揚によって、疎外された労働からの脱却を求め、それを職人の技能による労働の芸術化に具体化しようとした。ギルド的共同体の復権、自然環境と歴史的文化の復位の運動など、モリスの社会主義は唯物史観のドグマから自由なイデオロギーなのだ。 科学的社会主義が社会主義的科学のドグマではなく、科学に基礎づけられた社会主義の主張なら、「空想から科学へ」ではない。「科学から空想へ」の自由でなければなるまい。ユートピアン・モリスが求めたものではなかろうか。
by kenjitomorris
| 2006-11-22 21:54
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