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C.サンダーソン『この世界を見よ』を読む
 モリスの読んだ『資本論』の縁で、コブデン=サンダーソンに強く興味を惹かれました。
 すでに書きましたように、彼はモリスが熟読したマルクスの仏語訳『資本論』を、1884年にグリーンの美しい革表紙で再製本し、金箔文字を施し本の裏側に「ウィリアム・モリスと仲間たち1884」と銘まで入れました。その『資本論』が現在、J・ポール・ゲッティのウァームズリー図書館にあり、ロンドンの古書店でY先生が直接手に取り、写真に撮ることができました。100年以上経っても、製本は確りしていたし、とても美しかったそうです。サンダーソンの製本の腕が良かったことが、これで証明されたと思います。日本からわざわざロンドンまで写真を撮りに出かけたわけで、サンダーソンも喜んでくれたと思います。
 そのサンダーソンですが、『この世界を見よ』(サバト館刊)という論文集があり、その中の「工芸の理想」はモリス達のアーツ&クラフツ運動、そして当時のマルクス派の人たちの社会主義についての考え方を知るうえで、参考になりそうです。とくに中世のギルドとの関係、近代的労働組合との関係、そして労働との関係など、モリスとは少し別の角度から、製本の工芸職人の体験を通して具体的に語られています。簡単に要約しますと、
 閉塞の時代に、工芸の世界にも理想のヴィジョンが必要であり、それは中世の「職人組合、或いは工芸組合」に求められる。それを「なぜ現代の労働組会も同じことを目指さないのか?」個人的利益だけでなく、「その職種の名声と信用のために」私心を離れた望みを持つ、すべての工芸技術を組織する「製本家組合」、その運動により「産業」と「科学」を「芸術」に変貌させる。サンダーソンは、ラスキンを参考に組合の「輪郭図」を提示し、①素材、②各種工芸、商業間の協力、③文字、印刷に付される人間の言葉、④製本技術、装丁、⑤生活と労働の理想、を具体的に説明します。そして、その活動を炭坑など、「一国全体、いな世界全体の産業までも一変させる」、そうした「労働組合」を期待して、以下のように訴えます。
 「されば世界の産業を壮麗に繰り展げることである。されば人間のそれぞれの労働、それぞれの生産を壮麗に繰り展げることである。無機物、有機物の別なく、地球の出来るだけ多くの部分から地球が提供してくれるものを受け取ることである。」
 『この世界を見よ』ですが、1991年に生田耕作さんが訳されたもので、「工芸の理想」と「美しい書物」の2編が収められていました。古書として購入しましたが、生田さんの署名まであり、小冊子ながらなかなか小奇麗な装丁で、大変気に入っています。巻末に「T・J・コブデン・サンダスン小伝」が書かれていて、それによると1840年に生まれ、はじめ牧師を志したが弁護士になり、そのあとモリス達と活動する中で、モリス夫人の勧めで1883年に「製本師」になることを決め、その後修業を積んで、1898年モリスの「ケルムスコット・プレス」を受け継ぐ形で、「ダヴズ・プレス」を設立、53点の美書を出版したそうです。
 1883年と言えば、モリスが『資本論』を購入した後、熱心に読んでいた時期であり、それを傍で見ていて、そのままでは「擦り切れそうになる」ので、腕に覚えがあり、「製本師」になることを決めたサンダーソンが、モリスの『資本論』の再製本を買って出た、あるいはマルクス派の「仲間たち」が依頼した、のでしょう。翌1884年に再製本が出来上がり、モリスとその「仲間たち」のものになり、百数十年の歳月を経て、その『資本論』が現在ロンドンの古書店にあり、今回その写真を撮ったわけです。
 1884年は、83年にマルクスが亡くなり、その一周忌が行われました。マルクスの墓のあるロンドンのハイゲートで墓前祭が行われ、モリスもデモに参加しました。このデモは、パリ・コンミュンの10年を記念する意味もあり、モリスの手紙でも、大きなデモになったそうです。それにモリスとともに、マルクス派のサンダーソンも参加して、一緒に行進しました。モリスとサンダーソンは、いつも身近にあって、活動を共にしていた様子がわかります。モリスの『資本論』もまた、そういう「仲間たち」の共有財産として再製本されたのでしょう。
 また、モリスを中心とした「アーツ&クラフツ運動」、このキーワードもサンダーソンが使い出したそうです。むろん内容的にはモリスを始め、新たな芸術運動として、19世紀の産業革命による資本家的生産様式、その機械制大工業の大量生産―大量販売―大量消費への対抗的カルチャーです。しかし、機械制大工業の近代科学技術文明、つまり「SCIENCE&TECHNOLOGY」に対して、キーワードの「ARTS&CRAFTS」は、実に的確で卓抜な表現だと思います。3・11大震災による「原発神話」の崩壊など、近代科学技術文明の限界が明らかになった今日、それを超える文明のあり方を表現していると思うからです。
 このように見ると、サンダーソンはモリスと『資本論』、そして「アーツ&クラフツ運動」を巧みに組み上げ、バインドした功績を担う重要人物ではないでしょうか?
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by kenjitomorris | 2012-05-11 21:52



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