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W.モリスの読んだ『資本論』
 一昨年から書き始め、昨年の3・11東日本大震災で大幅に遅れてしまいましたが、『ウィリアム・モリスのマルクス主義―アーツ&クラフツ運動を支えた思想』(平凡新書)が、ようやく再校まで漕ぎ着けました。津波に流され、原稿を手放しそうになった夢を何度も見ました。こんなこと、初めての経験です。間もなく、6月15日に発売予定です。評価は、読者の皆さんのご判断を待ちますが、著者からすれば、まさに大震災から産まれた作品になってしまった、そう思います。
 その中の一節に「モリスが熟読した『資本論』-モリスとマルクスの接点を探る」として、モリスが所蔵したフランス語版『資本論』を紹介しました。その所在は、モリス死後百年、1996年のモリス展でロンドンのV&Aミュージアムが展示し、そのカタログが紹介されたので知っていました。ドイツ語が読めないので、モリスは仏語版を買い、表紙が擦り切れるほど読み、それを社会主義運動の同志サンダーソン(Cobden-Sanderson)が、わざわざモリスのために、美しいグリーンの革表紙で再製本したものです。『資本論』の内容は別として、非常に優れた製本の技術として、現在でも高く評価されているようです。
 そこで世界で一冊しかないモリスの『資本論』、今どこにどうしているのか?それを探りたくて、調べました。やはりロンドン郊外のWormsley図書館に所蔵されていることが分かりました。ただ、問い合わせたところ、現在はロンドンの中心街Berkeley Squareの古書店Maggsにあるので、そこで閲覧、撮影して欲しい、ということでした。丁度、モリス・バックス共著『ソーシャリズム:社会主義』の翻訳に、ご協力頂いている宮城学院大のY先生が、ロンドンに出かけるので、幻の『資本論』の撮影をお願いしました。
 じつは「古書店に置いてある」という話なので、これは値段によっては手に入るかな?そんな夢想を抱きましたが、それは当然のことながら幻想に終わり、Y先生に幻の『資本論』を手にする幸運を独占され、その代わり写真を沢山お土産に帰国されました。とても保存状態がよく、美しい装丁で、書き込みもほとんど無い、(じつはモリスの沢山の書き込みを当方は期待していましたが)モリスの『資本論』を確認しました。
 バックスは、ドイツ語で読み、さらに彼はエンゲルスとともにマルクスの原稿も読んだと思いますが、モリスは仏語版を読んで、二人が協力して共著『ソーシャリズム:社会主義』を書いた。しかも二人で、その中の第19章に『資本論』解説を書きました。この『資本論』解説にもとづく社会主義の主張が、共著『ソーシャリズム:社会主義』だったのです。その内容は、ロバート・オーエンやフーリエ(サン・シモンは少し違いますが)など、ヨーロッパ社会主義思想の本流ともいえる、共同体社会主義の思想の科学的基礎づけだった。それは、初期マルクス・エンゲルスの唯物史観によるマルクス・レーニン主義のドグマとは異なる、もう一つのマルクス主義であり、社会主義です。
 明治の日本の初期社会主義は、中江兆民などの自由民権思想を引き継ぐ土着性も強いのですが、さらに同時に早くからヨーロッパの社会主義の思想も入って来ました。その中に、モリスの共同体社会主義の思想が大きな影響をもたらした。すでに拙著『賢治ともリスの環境芸術』(2,007年時潮社刊)で紹介しましたが、1904年(明治37年)に堺利彦が、モリスの『ユートピアだより』を抄訳、「平民文庫五銭本」に入れて『理想郷』のタイトルで出版しました。それから3年後の1907年、明治40年に東京で「平民新聞」が発行できなくなって、「大阪平民新聞」が発行されましたが、そこに今度は堺の同志の山川均が、モリス・バックスの『ソーシャリズム:社会主義』のうち、『資本論』解説の部分を紹介したのです。
 この山川の『資本論』解説ですが、日本ではまだ『資本論』の翻訳が無い時点で、イギリスでの英語訳も遅れ、山川はほんの一言「モリス、バックス」の解説を紹介する、とだけ書いてあります。しかし、それこそ他でもないモリスの『資本論』、バックスとの共著『ソーシャリズム:社会主義』の『資本論』解説なのです。堺の『ユートピアだより』、続いて山川の『資本論』解説、正しく明治の初期社会主義は、モリスを通して社会主義の思想が、マルクス主義が、そして『資本論』が、日本に導入されたのです。
 さらにここで、堺利彦と山川均の二人が分業するように、文筆家の堺がユートピアロマンの『ユートピアだより』、理論家の山川は『資本論』解説を、それぞれ日本に紹介しました。堺と山川は、「労農派」と呼ばれる社会主義、マルクス主義の流れの代表者であり、創始者であり、指導者であった。労農派は、マルクス・レーニン主義、そして旧ソ連型社会主義のドグマに対立した日本独自の社会主義ですが、ソ連崩壊後の21世紀のもう一つの社会主義として、モリスのアーツ&クラフツ運動の発展として評価すべきだと思います。
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by kenjitomorris | 2012-04-27 21:03



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