<   2011年 05月 ( 2 )   > この月の画像一覧
続:「銀河鉄道の夜」と「ユートピア便り」
 昨年は、『銀河鉄道の夜』と接する機会が多かったように思います。NPO法人「シニアネット仙台」の朗読グループ「注文の多い料理店」については、何度か紹介しましたが、今迄一度も賢治の『銀河鉄道の夜』を朗読する機会がありませんでした。もともと朗読を目的にしていないで、賢治に興味があり入会していますので、「一度は『銀河鉄道の夜』を取り上げて朗読しませんか?」と我侭を申し出て、皆で朗読することになりました。
 もともと賢治の作品、花巻の方言も入っていますし、独特の言葉の魔術を使っていますので、朗読としては決して易しいものではない。むしろ読みにくい作品です。また、『銀河鉄道の夜』は長いので、全部読むのには時間が掛かります。そこで、少し端折って読みました。もう一度、今度は全部読み切りたいと思っています。
 それから、『館だより』の<館の足跡>にも書いたのですが、10月末大阪で開催の学会出席の途中で、東京の「なかの小劇場」に立ち寄り、『銀河鉄道の夜』の朗読・演劇を鑑賞しました。宮沢賢治研究会のお勧めに従っての観劇でしたが、仙台の朗読をした後だけに、賢治の作品は、やはり演劇的要素が強いことを実感しました。とりわけ『銀河鉄道の夜』は、「新世界交響楽」が出てきたり、「星めぐりの歌」があったり、演劇や音楽が組み合わされ、朗読のジャンルには収まりきれない作品だと、つくづく思いました。
 一方、モリスの『ユートピア便り』ですが、彼の社会主義―マルクス・レーニン主義と対立する共同社会主義Communitarianismと呼ぶべきだし、それが社会主義の本流だった―との関連で、最近もう一度読み直し、その要約・紹介を試みました。エンゲルスからは、「センチメンタルな空想的社会主義者」と敬遠され批判されましたが、西欧の社会主義の思想の流れは、むしろモリスこそ正統な立場にあったと思います。『ユートピア便り』は、彼の社会主義の思想を、ユートピア・ロマンとして描いた文芸作品です。
 エンゲルスの『空想から科学へ』に代表される、マルクス・レーニン主義とは違って、テームズ川の水系の自然エネルギーを重視し、機械ではなく人間の労働の喜びを尊重し、家庭や田園のコミュニティに基づく生活の喜び、それをマルクス『資本論』から学んだ社会主義として主張しています。『ユートピア便り』は、モリスの社会主義の単なる夢ではなく、「一つのヴィジョン」だったのです。
 そんなわけで、昨年から今年にかけて『銀河鉄道の夜』と『ユートピア便り』、この2つの名作を読み比べ、あらためて賢治とモリスの文芸思想、社会思想の関係について、色々考えさせられた次第です。もちろん二人の天才の文芸や思想について、簡単に結論付けることは出来ません。まだまだ考えなければならないと思いますが、2人の2つの名作に、共通したものが沢山ある。もちろん違いも多いのです。
 国の違い、歴史の違い、と言っても1896年にモリスが亡くなり、その年に賢治が誕生した、生まれ変わりのような2人の接続関係があります。ついでに指摘すると、この年に明治・三陸大津波が起り、賢治の亡くなった1933年に昭和・三陸大津波、そして今年は平成・三陸大津波です。賢治の深層心理には、三陸津波が強く働いていた。そこに賢治の再評価もあるのかも知れません。モリスのテームズ川も、その源流のコッツウォルズは洪水の常襲地帯だし、彼の別荘ケルムスコット・マナーも洪水の危険に曝されていた。それがまた賢治・モリスに共通した自然に対する深い畏敬の念に繋がるのかもしれません。
 ただ共通点と言えば、銀河とテームズ川、鉄道と船旅の差異があるものの、共に河を遡上する旅であり、また夢をみてのファンタジック・ロマンの形式で書かれ、さらにユートピアと呼ばれ「イーハトヴ」と呼ばれる、二人の理想の世界が描かれている。それも現実との接点を持ちながらのユートピア小説である点で、賢治が何がしかの影響をモリスの『ユートピア便り』から受けているように思わざるをえません。少なくとも賢治は、モリスなど欧米のユートピアロマンの形式で、羅須地人協会の経験を踏まえながら「イーハトヴ」の世界を書きたかったと思います。それが名作『銀河鉄道の夜』だったのでしょう。
 さらに賢治・モリス問題としては、予てからマイミクシィのヤジュルさんなど賢治研究の先輩達から提起されていた論点、賢治の日蓮宗など宗教観とモリスの社会主義、共同体主義の宗教の位置づけとの関連があります。賢治の『銀河鉄道の夜』は、言うまでもなく列車に乗り込んでくる乗客の話、カンパネルラの父親の発言など、宗教的救いの色彩が強い作品です。その点、モリスは宗教を否定する社会主義者で、『ユートピア便り』は宗教を否定するイデオロギーで書かれているのではないか?そういう誤解があり、それが賢治・モリス問題の背景にあるように思います。
 しかし、もう一度『ユートピア便り』を読んで頂ければ、モリスの共同体主義の理想像の究極は、その扉絵にあるとおりケルムスコット・マナーであり、しかも彼の墓がある村の小さな教会での「乾草狩り』が終わっての感謝の祝宴なのです。モリスの共同体主義は、教会を中心に教区を単位として、地域コミュニティの統合を教会に求め、その倫理も宗教的色彩の極めて強いものです。今、モリスとバックスとの共著『社会主義―その発展と成果―』を訳していますが、いずれ詳細に論じたいと思います。
 さらに、『ユートピア便り』のタイトルです。岩波文庫をはじめ、戦後は『ユートピア便り』に統一されましたが、始め堺利彦の抄訳は『理想郷』、その後、戦前では『無何有郷だより』『無何有郷通信』でした。英文は、"News from Nowhere"です。「何処からともつかない」「何処からかの」通信です。空間的には、2次元3次元を超えた、時間も歴史的時間、未来社会としての4次元空間、それが4次元空間芸術としての『銀河鉄道の夜』であり、モリスの”News from Nowhere"だとすれば、賢治とモリスの二人の名作は、いずれも宗教を否定しない共同体主義のファンタジック・ロマンとして、ポスト資本主義の未来社会を描いているのではないでしょうか?

a0063220_1255710.jpg
a0063220_12554846.jpga0063220_12562615.jpg
[PR]
by kenjitomorris | 2011-05-03 20:39
「銀河鉄道の夜」と「ユートピア便り」
 はじめに、すでに「賢治とモリスの館」がオープンし、今年もカタクリの群生、ピンクのカーぺットさながらに、見事に咲いています。ただ、今春の作並地方、例年に比べ雪の量が多く、寒さも長引きましたので、大型連休中もカタクリの花、咲き続けると思います。東日本大震災で、自然の脅威を見せ付けられましたが、例年にも増して美しく咲き誇っているカタクリの群生を見ていますと、人間は自然に対して、何時も謙虚に接し続けること、そして自然の美しさを大切にする温かい心が大切だと、つくづく思います。今回の原発災害にしても、人間の自然対する傲慢な驕りの結果ではないか?原子力の安全神話も、科学技術万能、経済性優先が生み出したもので、多くの被災者が犠牲に曝されてしまった。こうした現実に生きなければならないだけに、賢治やモリスの環境芸術の思想に立ち返る必要性を痛感します。皆さん、如何お考えでしょうか?

 賢治の寓話の中で、その代表作と言えば、ご異論があるかも知れませんが、私は『銀河鉄道の夜』を挙げたいと思います。まだ未完のようですが、かなり長期にわたり彼は推敲を重ねましたし、羅須地人協会の活動と重なる晩年、―と言っても、若くして逝った賢治には晩年は無いのですが―最後に近い作品であることなど、賢治の全霊が込められているように思います。彼が『銀河鉄道の夜』を書き残してくれたことに、感謝の念を禁じえません。
 モリスも沢山の作品がありますが、私的な思想的好みが加わりますが、何と言っても『ユートピア便り』を代表作に挙げます。彼の共同体社会主義、NHKで一躍有名になったハーバード大のサンデル教授のCommunitarianism共同社会主義の元祖でしょうが、その思想の文芸的作品こそ『ユートピア便り』です。ご存知の通り、日本で最初に堺利彦により『理想郷』として抄訳され、現在は岩波文庫にも入っています。ロンドンからテームズ川を遡上して、「世界で一番美しい村」コッツウォルズのモリスの別荘ケルムスコット・マナーへの船旅のユートピア・ロマンです。
 賢治はモリスを読み、多くを学び、羅須地人協会の講義でも、モリスを紹介していたことは、すでに拙著『賢治とモリスの環境芸術』にも書きました。モリスの「共同社会主義」の思想から、大きな影響を受けていたことは否定できないでしょう。とすれば、二人のそれぞれの代表作、『ユートピア便り』と『銀河鉄道の夜』の間に、どんな関係があるのか?無いのか?
 あるとすれば、具体的にどのような点なのか?賢治は『ユートピア便り』を読み、影響を受けていたとも言われますが、しかし二人の関係を切断する研究も有力です。それだけに2つの作品の関係はa0063220_840251.jpga0063220_840213.jpg、モリス・賢治問題の大きな論点になると思います。これから色々考えてみましょう。
[PR]
by kenjitomorris | 2011-05-02 20:42



賢治とモリスの館 - 最新情報
by kenjitomorris
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
外部リンク
カテゴリ
全体
未分類
以前の記事
2017年 09月
2017年 05月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 08月
2016年 06月
2015年 12月
2015年 08月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 09月
2014年 07月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 04月
2013年 03月
2012年 12月
2012年 09月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 05月
2011年 03月
2010年 12月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
フォロー中のブログ
賢治とモリス<研究ノート>
検索
記事ランキング
その他のジャンル
ファン
ブログジャンル
画像一覧