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モリス愛蔵の『資本論』
<情報コーナー>
 ①賢治の童話「鹿踊りのはじまり」の朗読発表会(NPO法人「シニアのための市民ネットワーク仙台」朗読グループ「注文の多い料理店」)5月16日に無事終了しました。約100人ほどの参加があり、とくに「高原」と一緒に「嘉十」役で参加,朗読した「鹿踊り」、「とても楽しかった」と言う評価を頂きました。また参加者に、当ブログの「鹿踊り」関連のコピーを配布させて頂きました。賢治の「精神」が、皆さんに十分ご理解頂けたら、と思っています。
 ②「館」は、新緑の季節を迎え、目に沁みるような緑に包まれております。ギボシなど、次々に芽を出してきて、花を咲かせてくれます。自然の美しいパワーを感じます。昨秋、沢山準備したバラ、芽が大きく膨らんできました。もうすぐ開花です。

<研究ノート>
 モリスはマルクスの唯物史観や『経済学批判』にこだわらず、いきなり『資本論』、特に仏語版を読み、さらに英語版も読んだことは、すでに紹介した。そうしたアプローチが、マルクス主義の理解に関して、エンゲルスなどからの影響を弱くした点が、特に重要と思われる。
 そこでモリスの愛読した仏語訳『資本論』だが、幸いのことに立派に製本されて現存する。その紹介がリンダ・ベリー編、多田稔監修『ウイリアム・モリス』に写真とともに載っている。コピーして、解説の部分をここでも紹介しておこう。モリスが、『資本論』を如何に熱心に読んでいたかが解る。まず、モリス所有の『資本論』だが、
 「M・J・ロワによる原著からの仏語訳、1872-75年、パリのモーリス・ラシャトル社刊
  緑色の皮張りで製本、金箔はトマス・コブデン=サンダーソンによる(1884年10月9日完   成)、29.0x21.6cm」
 この『資本論』は、ロワ版と呼ばれ、もともと分冊で発行された。したがって、72-75年の3年間に亘り、分冊が順次発行されたことになっている。そして、購入者が適当な分冊の量をまとめて製本したのであり、当時はこのように読者が自分の好みに応じて、適宜製本するのが流行していたのである。だから、モリスも『資本論』を分冊で購入の上、最初は自分で製本したのであろう。その後、84年になって、サンダーソンが再製本することになったわけだ。その事情が、以下のように説明されている。
 「モリスが注釈をつけたカール・マルクスの『資本論』の仏訳書は、彼の秘蔵の1冊でもあった。彼はおそらく1883年初頭、すなわち民主連盟に加わった直後にこの本を買い求めたと思われる。コーメル・プライスは彼の未公開の日記に、1883年4月13日付で、バーン・ジョーンズ家を訪ねた時に、そこにいたモリスが<読み始めたばかりのカール・マルクス>にとり憑かれたかのようであったと記している。モリスはこの書物を常に持ち歩き、何度も読み直したので、彼の芸術家仲間で社会主義者でもあった、トマス・コブデン・サンダーソンが1884年に再製本している。この本を受け取るにあたり、コブデン・サンダーソンは<モリスが絶えず研究のためにこの書物をひもといているので、ところどころ擦り減って抜けそうになっている>と書き記している。コブデン・サンダーソンはこの本を緑色の皮張りで、金箔文字を施し再製本した。本の裏側には<ウィリアム・モリスと仲間たち、1884年>と銘が入れられている。
コブデン・サンダーソンによる、この第二の製本は、1884年10月9日に仕上がった。彼はこれをド・カヴァリー製本所に転送し、メイドン・レインの彼の工房で仕上げた。コブデン・サンダーソンは後に、ケルムスコット・プレスの向かい側、アッパー・マル15番地にダヴズ製本所を創設した。本のなかには、このプロジェクトについて長々と説明した、1897年2月24日付のコブデン・サンダーソンの献辞がある。
1898年12月8日のモリスの競売の折に、F・G・ベイン氏が本書を購入し、コブデン・サンダーソン夫人に献呈した。その後は、エステル・ドーニー・コレクションが所蔵していた。」
 かなり長い説明だが、モリスはたんに通読したのではなく、「常に持ち歩き、何度も読み直していた」様子が分かる。あまり熟読したので「擦り減って抜けそうになる」まで読んでいたために、サンダーソンが再製本した事情が十分理解できるだろう。このような形で、モリスは『資本論』そのものから、マルクス主義に入ることになった。それでは、彼の『資本論』理解は、どのようなものだったのか?第15章に戻ってみよう。
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by kenjitomorris | 2008-05-19 12:50
モリスと科学的社会主義
<情報コーナー>
 カタクリの花の群生も終わり、眩しいばかりの美しい新緑の季節です。
 1) まだカタクリの葉や茎が残っていますが、山形からの来館者に教えてもらい、茎や葉を軽く茹でて胡麻和えなどで試食してみました。これがまた、少し甘味があり、歯ごたえもよく、大変な美味でした。「館」のランチ・メニューに加え、来春は是非、お召し上がり頂きたいと考えます。どうかご期待下さい。
 2)「賢治&モリス 館だより」を、お送りしましたが、最近ご来館の皆様の数が増えております。お知らせしましたように、完全予約制にしましたが、ウィークデーにもご来館の予約が多数あり、喜んで居ります。とくに「館だより」を見て、またお出かけのリピーターの方が増加しております。どうぞご家族、お友達、連れ立って新緑をお楽しみ下さい。バラも沢山植えましたので、これから「館」は最高のシーズンです。 

 <研究ノート>
 モリスもマルクスによる「科学的社会主義」を高く評価し、自らをマルキストとして位置付けていた。にもかかわらず、モリスの科学的社会主義は、エンゲルスやレーニンとは違うし、いわゆるマルクス・レーニン主義の教条ではない。だからこそ、エンゲルスにより「組織の指導力」を問われたし、センチメンタルな空想的社会主義として敬遠されていたと思う。では、どこにモリスの科学的社会主義とマルクス・レーニン主義の教条との差異があるのか?
 エンゲルスの科学的社会主義の定式によれば、1840年代の初期マルクスの時代から、マルクスとエンゲルスの共同の仮説的テーゼとされてきた唯物史観、それを価値・剰余価値の理論で基礎付けたのが科学的社会主義だった。言い換えれば、唯物史観の枠組みの内部に、イギリス古典派経済学の批判的継承による価値・剰余価値の理論を位置づけたもの、それが科学的社会主義だったのだ。唯物史観は唯物論的な歴史の見方であり、資本主義の生成・確立・没落についての単なるイデオロギー的仮説である。その仮説が、マルクスの古典派経済学の批判的検討を通して科学的に論証された、と言うわけだ。
 そこでマルクス・エンゲルスの唯物史観だが、それをモリスはどう受け止めたのか?言い方を変えると、唯物史観を受け止めたのか?それとも、受け止めなかったのか?
 ここで結論を先取りすれば、モリスは唯物史観を受け入れてはいなかったのだ。唯物史観というイデオロギー的仮説を受け入れることなく、自らの共同体的社会主義のイデオロギーを科学としての『資本論』によって、直接的に根拠付けようとした。マルクスの『資本論』を高く評価し、それにより自らの社会主義の主張をチエックして裏付ける、それを科学的社会主義としたわけだ。
 もちろん、すでに紹介したが、モリスもマルクスの生い立ちや思想形成には触れている。また、エンゲルスとの出会いも紹介ている。『共産党宣言』などの初期マルクスの著作の紹介、さらに『経済学批判』の商品・貨幣論を紹介する形で、『資本論』の解説を始めていたのだ。にもかかわらずエンゲルス・レーニン流の科学的社会主義の枠組みだった唯物史観には、一切触れず仕舞いなのだ。なぜだろう?
 とくに『経済学批判』は、マルクスの「経済学批判体系」の第1分冊として、その点では『資本論』の第一分冊として公刊された。だからモリスも『批判』を紹介する形で、商品・貨幣論については、『資本論』の紹介に入ったと言える。しかし、『資本論』が公刊されてみると、『批判』とは大きく違がっていたのだ。残念ながら、その違いについて、モリスは触れていないが、事実上マルクスは『批判』を捨てて、新たに書き直して『資本論』を準備、それを科学的社会主義の基礎に据えたのだ。『批判』から『資本論』には、特に方法論について、重大な質的転換を迎えていたことになる。
 『批判』には、有名な「序言」が冒頭に置かれ、1)経済学批判体系のプラン、2)自己の研究の経緯、そして3)「研究にとって導きの糸として役立った一般的結論」として、唯物史観を公式化したのである。この唯物史観の公式は、①生産力と生産関係による経済構造としての下部構造、②下部構造による法律的、政治的、精神的生活の上部構造の規定、③生産力の発展と生産関係、とくに法的所有関係の矛盾拡大、④矛盾の拡大による階級闘争の激化と体制変革=革命、⑤階級闘争史観に基づく歴史の段階的変化、⑥アジア的、古代的、封建的、および近代ブルジョア的生産様式の提起、ここで人類の前史が終わり、解放された本来の人類史である後史に入る。
 以上が「序言」での唯物史観の公式だが、マルクスが自らの経済学批判体系プランに従えば、『批判』は第一分冊(第一章「商品」、第二章「貨幣」)であり、以下第二分冊として第三章「資本」以下を出すはずだった。ところが、ここでマルクスは重大な計画変更を行うことになった。『批判』の継続を放棄、『剰余価値学説史』でもう一度古典派経済学の研究をやり直した。その上で、『批判』とは別個の著作として、『資本論』を刊行したのだ。それにより唯物史観は、初期マルクスからのエンゲルスとの協同による「導きの糸」としては役立てたものの、その枠組みで『資本論』は書かれなかったのだ。だから『資本論』の序文などには、唯物史観の公式の類は登場しなくなり、姿を消すことになった。これがマルクスの「プラン変更問題」である。
 エンゲルスは、『資本論』が未完だったこと、それに副題に「経済学批判」が残ったこともあったと思う。「プラン変更問題」を重視せず、むしろ唯物史観の枠組みを維持し、その枠組みの内部に価値論・剰余価値論を位置づけた。そして、唯物弁証法の歴史観として「科学的社会主義」を定式化して『反デューリング論』、つまり『空想から科学へ』をまとめ、それをレーニンが引き継いだ。生産力の発展は「個人的生産から社会的生産へ」、生産関係の変化は所有関係が重視され「個人的所有から社会的所有へ」、そして前近代的な単純商品生産社会から、近代ブルジョア社会へ、さらにプロレタリア独裁によるソ連型国家社会主義が展望されたのだ。
 さらに、エンゲルス流の唯物史観の枠組みでは、唯物弁証法の歴史観である以上、社会の生成・発展・没落の歴史が、商品・貨幣・資本の論理的展開と、弁証法的に統一しなければならない。歴史と論理の統一である。同時に科学とイデオロギーの統一であり、理論と実践の統一のドグマになる。このドグマでは、人間の主体的実践の独自性は否定され、その結果Utopist のロマンチックな人間解放のパトスもエトスも入り込む余地は無い。センチメンタルな社会主義者として切り捨てられることにならざるをえない。
 センチメンタルな社会主義者モリスは、エンゲルス・レーニン流の唯物史観の枠組みの内部に『資本論』の商品・貨幣・資本の「科学」を、組み込んで位置づけることをしなかった。『批判』から商品・貨幣の説明を利用しているが、それは『資本論』に引きつけての説明に過ぎない。『批判』の「序言」の内容には一言も触れないし、唯物史観にはノータッチだった。唯物史観のイデオロギー的仮説は前提されること無く、先輩のラスキンなどから学んだUtopist としての社会主義の主張を、マルクスの『資本論』の科学により裏付けようとしたのだ。モリスの「科学的社会主義」は、エンゲルス・レーニン流の唯物史観ではない。『資本論』の科学による「科学的社会主義」なのだ。
 モリスは『資本論』を、一度は仏訳で、さらに英語版でも読んだ。特に仏訳については、モリスはただ通読しただけでなく、難解な内容を繰り返し読んだらしい。ノートをとって読んだ。モリスが精読し、座右に置いていた仏訳『資本論』が製本されて残っている。     
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by kenjitomorris | 2008-05-07 15:20



賢治とモリスの館 - 最新情報
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