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世界から見たイーハトヴ
 花巻で開催された第3回の「宮沢賢治国際研究大会」に参加した。初めての参加だし、8月25-27日のうち26日のみだが、さすが賢治である。フランス、アメリカ、韓国、中国、インド、ポルトガル、ロシア、ポーランド、ベトナム、さらに全国各地から多数の参加があった。賢治研究の多様性とともに、研究の層の厚さには驚くばかりだ。賢治童話における「異界」と「境界」、想像力の源泉としての中国の仏像、「銀河鉄道」を原作とした映画「夜のうつろい」など、高度な研究の深みに畏怖さえ感ずるものがあった。
 にもかかわらずシンポジウム「世界からみたイーハトヴ」は、いささか期待はずれだったと思う。キーワードとして「北」と「注文」を提示した基調報告、上記の中国の仏像研究、「夜のうつろい」など、パネリストの報告も素晴らしかった。しかし、シンポ全体をまとめた時、焦点は絞られないまま、個別の報告の集合に終わったことは残念だと思う。とくにタイトル「世界からみたイーハトヴ」から、ユートピアンとしての賢治像、そして願うならW・モリスや農民芸術にも触れられることを待望していたが、一切触れずじまいに終了した。
 国際シンポの困難さはあるだろう。パネリストの集め方、打ち合わせの困難さ、言語の問題もあろう。しかし、賢治研究が童話、詩など文学作品を中心に多様化が進み、研究は細部に深められている。日本の作家で、賢治ほど多数の研究者の層を集めている作家は少ないと思う。それだけに研究の対象が、詩や童話など文学作品に集中し、偏りが見られはしないか?心象世界に閉じ込められてはいないか?文学の外からは、立ち入りがたい研究の壁が自然に築かれているようにも感じてしまう。
 言うまでもない。賢治は偉大な文学の天才だ。しかし、盛岡高等農林の優等生だし、農業技術者だ。そして、花巻農学校の教師だったし、教育者なのだ。さらに、羅須地人協会の実践活動家でもあった。そこではイーハトヴの理想を掲げたユートピアンではないのか。むろん病魔と闘い敗れた孤独な絶望もあった。しかし、「雨にも負けず、風にも負けず」の地人への夢を抱き続けた死なのだ。そして、ユートピアンの夢を「アート・アンド・クラフト」運動の創始者W・モリスの芸術論、社会思想から学び、その継承に人生を賭けたとも言えると思う。
 「世界からみたイーハトヴ」には、110年前のモリスの死から賢治の生の継承を見逃すべきではないと思うのだが。
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by kenjitomorris | 2006-08-31 21:31
「聞き書き」について
 伊藤与蔵さんの「聞き書き」だが、もともと与蔵さんの近所に住んでおられたK氏がヒヤリングされたもので、昭和47年8月11日にまとめられた。30年以上昔になる。K氏からは、「私だけが聞き流してしまっては勿体ないと思い、ガリ版で印刷し職場の皆さんに渡して見てもらったものです」とのことだ。そのまま埋もれていたようだが、花巻行きなどでお世話になって居るY先生が、先月始め偶然ガリ版刷りを読まれ、小生に連絡していただいたものだ。なぜY先生が読んだか?
 Y先生の父上がK氏の友人で、「ガリ版で印刷し職場の皆さんに渡して見てもらった」、そのガリ版をこの度Y先生が読んでの連絡である。Y先生も、与蔵さんが余りにも直裁に、賢治の農民芸術論の講義が「ウィリアム・モリスなどの言葉を引用し説明されました」とあったのに驚き、「賢治とモリスの館」にまずは連絡となったそうだ。
 「聞き書き」の内容は、「賢治先生と私」「桜の別荘」「羅須地人協会」「死ということ」「先生の怒り」など、大正15年4月から昭和3年8月までの約2年半の協会活動を中心とする話題である。興味深いエピソードが取り上げられているだけではない。賢治先生が偶像化されず、実に生き生きと語られている。賢治とモリスの関係もそうだが、賢治とロシア革命やマルクス、エンゲルスのこと、賢治の思想が多角的に解明されるに違いない資料だろう。
 Y先生の父上もK氏も、すでに90歳を越えた高齢者だ。お元気なうちに「聞き書き」をまとめて公刊する必要があるだろう。賢治研究はモリス研究にとっても大事なのだ。110年前、モリスが死んで、賢治が生まれた。生まれ変わりのような2人の天才が、環境芸術、地人芸術、そして技能と工芸の復権に、今日どのように生かされるか。
 「聞き書き」の資料的価値は大きいと思う。
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by kenjitomorris | 2006-08-23 21:02
伊藤与蔵さんの「聞き書き」
 今年2006年は賢治生誕、そしてモリス没後110年、何か記念にと考えていた。先月始め、これまで賢治に関連してご協力いただいているY先生から、「本日伊藤与蔵さんの聞き書きを読んでいたら、モリスのことが出ていたので、その文を送ります」とのメールが入った。「聞き書き」の一部だ。
 「羅須地人協会」の項目の中だが、モリスに関連して「農民芸術という学科もありました。これは大変難しくてよくわかりませんでしたが、ウィリアム・モリスなどの言葉を引用し説明されました。」その上で、労働と芸術の関連、とくに農民芸術について記憶にあり、印象に残っていることが語られている。そして、こんな言葉でまとめている。

 「大昔は、人間はみな百姓でした。」と先生は言われました。「当時の百姓の生活には歌もあり、踊りもあり、芝居もあったのです。世の中が進むにつれてそれらのものはみな職業芸人に横取りされしまって、百姓にはただただ生産労働だけが与えられるようになったのです。これからの百姓は芸術をとり戻して楽しく働くようにならなければなりません。」というようなことをおっしゃったように思います。

 賢治の作品の中で、具体的にモリスの名前が出てくるのは「農民芸術概論」、それも「農民芸術概論綱要」のうち、「農民芸術の興隆」の章にのみ書き加えられていた内容メモの中だけだ。しかも、賢治の「農民芸術概論」は全部、昭和20年8月の戦災で消失して現存していない。だから、賢治がモリスの影響を受けていたにしても、直接的なものか、間接的か?部分的か、広範囲か?影響の内容は何か?など、いろいろ疑問になろう。
 「賢治とモリスの館」の来訪者の質問も、「賢治とモリスは、どんな関係があるのですか?」というものが一番多い。当然の疑問、質問だろう。こうした来訪者の質問に対しては、伊藤与蔵さんの「聞き書き」の内容が、かなりの説得力を持つに違いない。「聞き書き」の公刊を思い立ったのも、モリス愛好者、賢治ファン、そして英ガーデニングの好きな人々に、賢治の農民芸術=地人芸術の思想的深みを知って欲しいと思うからだ。
 これから賢治とモリスの関係について、「聞き書き」を参考にしながら書き込んでみたい。ご意見など頂ければ幸いである。 
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by kenjitomorris | 2006-08-16 15:34
賢治生誕・モリス没後110年
 仙台、はじめは空梅雨かと思わせたが、長々と降り続いた。記録的な長期の梅雨が8月までづれ込み、梅雨明けは旧暦・仙台七夕だった。梅雨で身も心も腐りかけてしまった。歳のせいもあるのだろう、腐りかけの体で、「館」の庭の椎茸栽培用のホダ木を片づけ中に「ぎっくり腰」、久しぶりに動けなくなった。アリナミンを飲み、足のマッサージの素人療法で治そうと努力したが、ぶり返しでダメ、とうとう医者のお世話になった。レントゲンでも骨に異常なし、骨密度も平均並み、「膏薬」を張っておけば良し、やはり長梅雨のせいにしておこう。
 さて、今年2006年は、賢治生誕110年だ。と言うことはW・モリス没後110年でもある。賢治については、これから花巻などで記念行事が続くので、どれか参加したいと思っている。「館」でも節目の年に相応しいことをしたいと思っていたら、羅須地人協会で賢治の下で学んだ故・伊藤与蔵さんの「聞き書き」を公刊する目処がついた。この「聞き書き」、協会での賢治がじつに生き生きと記録されている。とくにモリスについても触れられているので、モリス―賢治のつながりを明らかにする資料としても大変貴重なものだ。
 今年中の公刊となると、あまり時間がない。腰痛に負けてはいられない。頑張ろう。
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by kenjitomorris | 2006-08-09 07:31



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