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アート&クラフト運動の復位
<情報コーナー><研究ノート>
 コッツウォルズの庭園のガーデニングを見て感じたことだが、単に庭造りや花壇造りの美しさではないことだ。2泊したMill Deneのガーデンに代表されると思うが、庭造りがアート&クラフト運動に裏付けられ、それに結びついていることだ。ここは1千坪余りの庭で、あまり広くない。NHKのBSハイヴィジョンで放送されたキフツゲート・コート・ガーデンズやナショナルトラストの庭園などと比べたら、小規模なので日本の庭造りには身近だ。
 Millの名前から分かる通り、もともと水車小屋を利用したもので、川の流れを池に利用している。沢山の魚が泳ぐ。川べりとの土地の段差を活用して、羊の遊ぶ牧場を景観に取り入れている。キッチンガーデン、果樹園、スタンダード仕立ての蔓バラの小徑、さらに小さなクリケット場もある。川や丘陵の自然と自生の花木(日本では山野草だが)をベースにしているが、庭としては実に多様な組み合わせの工夫が凝らされている。
 アート&クラフトを感じるのは、心憎いほど上手に配置された庭のオブジェ、モニュメント、ガーデン・ファ二チャーだ。ストーン・アートの著名な作品も並べられていて、まさに「庭園ミュージアム」だ。休日は沢山の訪問客があるし、オープンなのはガーデンだけではない。ここは宿泊もできるB・B(Bed&Breakfast)、つまりオープン・ハウスなのだ。手作りジャムなどの朝食は、ロンドンなど他のどのホテルの朝食より良かった。
 そこの女主人が、一読するよう薦めてくれたのが「コッツウォルズとC・R・Ashbee」を紹介した小冊子だった。翌日でかけたチッピング・カムデン、ここは13-14世紀栄えたウール・タウンで、ハニー・カラーのライム・ストーンの家並みが実に美しい。タクシードライバーの案内してくれたのが、BSハイヴィジョンで見たことのある「The Guild Craft Workshops」である。入り口には、1902年にギルドを再建したAshbeeの名前のあるプレートが入っているではないか。モリスのアート&クラフト運動の後継者の代表がAshbee だ。ここにもモリスがいる。
 ギルドの仕事場では、テレビですでに面識のあった3人のクラフトマンが手作りの銀器を製作中だった。NHKのテレビ放送のことも知っていたからだろうか、気持ちよくカメラに収まってくれた。製作した銀器を販売し、ギャラリーでは日本の和服を含むクラフト・グッズも展示されている。また、中世ではなく21世紀のギルドだ。テレビでは紹介されなかったが、クラフトウーマンの若い女性の職人さんも一生懸命手作りの仕事に励んでいた。
 女主人のアドヴァイスの心遣いに感謝しつつ、隣の本屋に飛び込んだ。紹介された冊子は品切れだったが、Ashbeeについての大部の伝記が見つかった。C・Alan”C・R・Ashbee:Architect,Designer and Romantic Socialist” いささか高価な買い物になったが、記念に買い求めた。モリスからAshbeeへ、いよいよアート&クラフト運動の勉強を始めなければならない。残り少なくなった人生、知力も体力も大丈夫だろうか?
 『ウィリアム・モリスへの旅』のガイドに従い、ロンドンではリヴァプール駅に近いオールド・スピタル・フィールド・マーケットに隣接の「歴史建築物保存協会」に出掛けた。ここはマーケットの再開発の波が隣まで押し寄せていた。情報化やグローバル化による歴史の転換に、協会はどのように対応するのか?休日で閉まっていたが、さらにモリス達が「赤い家」での結婚生活に入る前、活動の場となった「レッド・ライオン・スクエア」を訪れ、「芸術ギルド協会」の所在も確かめることができた。ギルドの名が、中世の昔ではなく、コッツウォルズとともにロンドンの中心部にも、ちゃんと生きているのである。
 英ポンドは強い。円安の日本からの旅行者には痛い。サッチャーの新保守主義、金融ビッグバン、ポスト冷戦のグローバル化や情報化を利用した金融立国が成功だった。同時に、「世界で一番美しい村」のアート&クラフト運動も生きている。低成長ながら14年の景気拡大は、日本の「いざなぎ越え」をとっくに超え、世界最長だ。イギリスは面白い国である。
 そんなことを考えながら、25年前、読書室の利用でお世話になった大英博物館の前に来た。ここは休日オープン、玄関前の垂れ幕に日本の和服とともに、大きく「Crafting Beauty in Modern Japan」とある。7月19日から始まる企画展の宣伝なのだ。今、なぜ大英博が「近代日本の工芸美」と銘打った企画展をやるのか。昨年は、パリのオペラ座で日本の歌舞伎が大盛況だった。
 英仏、ヨーロッパの日本への眼は、日本の工芸、伝統美に向けられている。新しいジャポニズムか?そう言えば、アート&クラフト運動は、自然環境への関心による庭園設計の影響とともに、東洋・日本の影響が英国の装飾デザインに影響した、とも言われている。ロンドンの宿泊は、ヴィクトリア&アルバート博物館に近い、「モリスの部屋」もあるホテル「GALLERY」だった。お陰で目の前のV&Aには3回も足を運び、昨年10月から一般利用の再開されたモリスのデザインによる「グリーン・ダィニング・ルーム」で、壁紙やステンドグラスをゆっくり鑑賞しながら食事を楽しんだ。
アート&クラフト運動の復位_a0063220_13491559.jpg

by kenjitomorris | 2007-07-12 21:53
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賢治とモリスの館 - 最新情報
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