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モリスの社会主義
<情報コーナー>
 11月7日、岩手大学の賢治センターで、賢治の盛岡高等農林時代の「得業論文」についての話を聞いた。大学のように「卒業論文」とは呼ばず、「得業論文」と呼んだそうで、岩手山の火山灰地の土壌改良という実学重視の研究など、とても面白かった。
 ついでに伊藤与蔵さんの「聞き書き」に関連して、同じ羅須地人協会のメンバーだった故伊藤克己さんの弟さんにお会いし、ご協力頂くことになった。協会メンバーの弟、息子など、2世による座談会を来春早々に予定している。羅須地人「協会2世」の群像の語りにご期待を!
<研究ノート>
 モリスの社会主義は、歴史的仮説に過ぎなかったマルクス・エンゲルスの唯物史観のドグマ、とくにエンゲルスの『空想から科学へ』の社会主義論とは、かなりニュアンスが違う。まず、モリスの社会主義は、R・オーエン以来の共同体を重視する社会主義だった。その点でも、エンゲルスからすれば、「根深くもセンチメンタルな社会主義者」として、決して高く評価しようとしなかったのだろう。「ユートピア社会主義者」であり、空想的社会主義と見なしていたわけだ。
 もっともエンゲルスのモリス評価は、1883年はじめに加盟した「民主同盟」、さらに「社会民主同盟」の組織内の対立による事情も大きい。エンゲルスは「同盟」の議長のハインドマンと仲が悪く、モリスのように組織を丸く治めようと努力していた立場を快く思わなかったように見える。でも、モリスがマルクスの一周忌に協力したり、マルクスの娘エリノア・マルクスと行動を共にしている関係もあり、露骨な排除は無かった。しかし、エンゲルスを中心とするドイツやロシアからの亡命マルクス主義者たちとの関係は、そんなに良くは無かった。こうした事情は、都築忠七『エレノア・マルクス』が参考になるだろう。
 しかし、もっと大きな理由は、モリスの社会主義に対する考え方が、唯物史観やエンゲルス流の科学的社会主義とは異なっていた点だろう。ごく大まかに整理してみたい。
 1)もともと市場経済は、共同体と共同体の間に発展し拡大してきた。そして、共同体の経済を刺激し、生産力を高め、消費も高度化した。しかし、市場経済は共同体の経済を破壊した。農業や農村を破壊して、近代化や効率主義の改革を迫った。市場経済は、個人主義や自由主義、商業主義などによる思想や生活を生み出した。その極点が、産業革命の工業化社会の確立であり、機会制大工業の大量生産・販売・消費の生活や文化だった。
 モリスはそれに反対だった。共同体を基礎に、生産や生活、文化・芸術を再建しようとした。個人主義に対しては社会主義、自由主義に対しては協同主義、そして商業主義に対しては自然環境を大切にする環境主義だった。イギリスの社会主義が、オーエンなどの協同組合主義と結びついていたのは、市場経済、工業化、商業主義への反対の思想だったからだ。その流れを汲んだ社会主義の思想がモリスのそれだった。
 2)市場経済は、個人主義を強め、個人的・私的所有の観念を生み出した。人間の労働力まで商品にして、労働市場で取引される賃金労働者を創出して、資本主義の階級社会になった。市場の競争は、地域の農村社会だけでなく、家族や家庭の絆も切り崩した。土地も私有財産にした。社会主義が、私有財産を否定し、土地の国有化を主張するのも当然だった。
 モリスの思想も、私有財産に否定的で共同体を重視したが、根本は労働のあり方だった。人間の労働力まで商品化し、機械制大工業が支配する。熟錬が否定され、労働は単純化され、骨折り・苦痛になった。この労働の疎外から脱却して、芸術的な熟練労働の復権による労働の喜びの回復を図ること、ここにモリスは、社会主義の主張の根本を据えた。
 3)私有財産の制度は、法制度だ。階級制度を前提して、プロレタリア独裁の名の下に「労軍ソビエト」により、土地の国有や集権型計画経済が、「ベルリンの壁」の向こう側に出来た。「私的所有と社会的所有」の基本矛盾の解決は、国家社会主義の性格を持つ。だが、ソ連は市場経済の競争原理に敗北、崩壊した。
 モリスも、過渡的には国家社会主義を認めたが、土地の国有化や上からの集権型の計画経済を否定した。法制度の所有ではなく、生産の根元にある労働の疎外からの脱却を求め、労働の芸術化による働く悦びの回復をめざした。職人の技能を重視する「アート・アンド・クラフト運動」による生活芸術の運動であり、歴史や伝統文化、環境を重視する「教育の価値」を評価した。人間の自由を尊重する共同社会なのだ。
by kenjitomorris | 2006-11-10 11:28
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