宮沢賢治とロシア革命
  <情報コーナー>
 館の周辺の山々、すこし色づき始めました。また、夜の気温が下がって来ました。11月の初めには、例年どうり館の庭は紅葉で真っ赤に染まると思います。
 
 <研究ノート>
 伊藤与蔵さんの「聞き書き」では、賢治がモリスの芸術論、とくに芸術と労働の関係については、モリスなど「アート・クラフト運動」の思想を継承していることが強調されていた。この芸術思想は、さらにモリスの社会主義の思想や行動をも裏付けている。日本では、モリスの『ユートピア便り』が、明治37年に抄訳ながら『理想郷』として、初めて訳出され普及した。モリスの芸術論は、彼の社会主義論として、明治から大正へ、多くの知識人に大きな影響を与えていたのだ。賢治への影響も例外とは思えない。ロシア革命以前、つまりソ連邦の成立以前の日本の社会主義思想は、無政府主義のクロポトキン、それと並んでモリスが代表していたともいえる。 
 1917年ロシア革命は賢治21歳、盛岡高等農林3年生の時、1922年ソ連邦成立は賢治26歳、花巻農学校の教諭だった。「農民芸術概論」を書き、羅須地人協会が設立、活動を始める4年前のことだ。モリスなど『ユートピア便り』の社会主義や芸術思想とロシア革命の現実が、賢治など多くの知識人の眼にどのように映り、どのように受け止められたか?プロレタリア独裁の暴力革命、「労・兵ソビエトと全国の電化」の社会主義の現実は、産業革命の工業化の資本主義を超えようとしていたモリスの「ユートピア社会主義」の夢とは、余りにもかけ離れた暗い現実ではなかったか?知識人の間に動揺が走り、思想的混乱が生じたのも当然だったろう。東大の卒業論文のテーマにモリスを選んだ芥川竜之介が、「ただぼんやりとした不安」という謎めいた遺書を残して自殺した。「ぼんやりとした不安」の背後には、ロシア革命とソ連邦の現実があったという推測もある。
 では、こうした思想界の混乱や動揺の中で、モリスの芸術思想、そして社会主義を受容・継承しようとしていた賢治は、ロシア革命をどう受け止めていたか?
 「聞き書き」には、「私は小ブルジョア」の項目があった。賢治はそこで「革命が起きたら、私はブルジョアの味方です」と言い切り、「私は革命という手段は好きではない」とも語っていた。彼が自分の出身階層が小ブルジョアであることは、いわば客観的事実として率直に認めていたことであって、賢治らしい率直さだと思う。プロレタリア独裁のテーゼからは、小ブルジョワが反革命の側につく。そこから賢治は、自らは客観的な階層的地位からすれば、反革命の立場に立たざるを得ないことを率直に語ったのであろう。
 しかし、ここで賢治が「革命という手段は好きではない」と語っていることは、ロシア革命に対する不賛成・反対の意思表示である。プロレタリア独裁の暴力革命の方式に、賢治がはっきり反対の立場に立とうとしていたことがわかる。モリスなどの、西欧社会主義・社会民主主義の思想的伝統の流れからすれば、レーニンのボルシェビズムは相容れないものだろう。賢治のロシア革命に対する明確な否定の態度表明は、モリスなどの社会主義の思想からは、むしろ当然ともいえる立場の意思表示だったのではないか?「農民芸術論」、そして羅須地人協会の運動を理解する上でも、大事な論点提起だと思う。
 すでにソ連が崩壊、ロシア革命の歴史的意義が否定された今日、あらためて賢治の苦悩とともに、モリスから賢治への社会主義の思想の流れを考え直す必要があるのではないか。
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by kenjitomorris | 2006-10-16 10:34
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