モリスの著作が、とくに沢山の著作の中で『理想郷』(ユートピア便り)が、明治の日本で堺利彦の手で翻訳され、紹介されたことは興味深いことだ。詩集や物語の翻訳ではなかった。モリスがマルクスの『資本論』仏訳を苦心して読み、そのうえで理想社会を大胆に、明るく、生き生きと描いた社会主義論だ。モリスからいえば、それは100年以上も未来のロンドンであり、テームズを遡ったコッツワォールドの田園地帯が社会主義の理想郷だった。しかし、マルクスは亡くなり、『空想から科学へ』のエンゲルスによるモリス評価は、たんに「空想的社会主義」として冷淡なものだった。
堺がモリス『理想郷』を訳したのは、1903-4年のことだ。レーニンのロシア革命、つまりソ連型社会主義より10年以上も前の話。そこにはソ連型社会主義の一党独裁のイデオロギーの支配はまだ無かった。モリスの社会主義の理想が自由に語られ、堺もまた、モリスの共同体を基礎とした「その詩的な、美的な、自由な、悠長な生活ぶりが、人の心を引くに足る」と紹介し、さらに「モリスはいつまでも多くの人に愛読されている」とまで称えている。まさに堺は、その時モリス主義者だった。その堺により1906年「日本社会党」が誕生、明治時代の「初期社会主義」の産声が上がったことを書き止めておく。 文人としての堺は、小説や随筆、俳句や和歌も詠んだ。和歌の1つに、出身地の福岡県の田舎を回想した、こんなものがある。 今もなほ 蕨生ふるや茸いづや わが故郷の痩せ松原に とし彦 これが掛け軸となり、戦後日本社会党の委員長を務めた鈴木茂三郎さん、さらに大内兵衛先生、わが恩師の大内力先生から、小生の東北大学退官のとき頂戴した。「記念までに堺 枯川の軸を進呈申しあげます。社会主義の思い出にはなるかもしれません」との添え書きとともに。 今度、堺の『理想郷』初版を手に入れたこともあり、ぜひ一緒に「賢治とモリスの館」に並べさせて貰いたいと思っている。興味のある方は、是非ご覧下さい。
by kenjitomorris
| 2006-01-31 22:52
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